仙台高等裁判所 昭和45年(ウ)146号 判決 1971年4月28日
申立人(債務者)
有限会社港屋旅館
代理人
長田弘
被申立人(債権者兼債権者平ハル相続人)
平テルノ
被申立人(債権者平ハル相続人)
平力
外一名
右被申立人三名訴訟代理人
小林信夫
外一名
被申立人(債権者平ハル相続人)
平伊祖一
外一名
主文
1 福島地方裁判所が同裁判所昭和四二年(ヨ)第四六号仮処分申請事件につき、同年六月一二日なした仮処分決定を取り消す。
2 申立費用は被申立人らの負担とする。
3 この判決は仮に執行することができる。
事実《省略》
理由
申立人有限会社港屋旅館が昭和三四年六月一八日温泉旅館業の経営、観光客の招致およびこれに付帯する事項を目的として、資本金三四〇万円、出資口数三四〇口、出資持分一口の金額一万円と定め、亡平忠吉および亡平ハルは出資口数各一一〇口を、被申立人平テルノは出資口数一二〇口をそれぞれ有する社員および取締役(ただし忠吉は代表取締役)として設立されたものであること、亡平ハルおよび被申立人平テルノが申立人有限会社港屋旅館、被申立人平伊祖一、同平ナカ、浜津智宏および渡辺隆一を債務者として、福島地方裁判所昭和四二年(ヨ)第四六号仮処分申請事件をもつて仮処分を申請し、同裁判所が同年六月一二日、右事件につき別紙第一目録記載のごとく平伊祖一が申立人有限会社港屋旅館の代表取締役および取締役としての職務を、平ナカ、浜津智宏、渡辺隆一が同会社の各取締役としての職務を、いずれも執行することを停止し、取締役および代表取締役の職務代行者として石沢茂夫を選任する旨の仮処分決定(以下、本件仮処分決定という。)をしたこと、被申立人平伊祖一、同平ナカ、浜津智宏が申立人有限会社港屋旅館、被申立人平テルノ、同平力、同平照子を債務者として、福島地方裁判所昭和四四年(ヨ)第一二一号仮処分申請事件をもつて仮処分を申請し、同裁判所が同年一〇月一六日、右事件につき、別紙第三目録記載のごとく申立人有限会社港屋旅館の出資持分につき、平伊祖一が一四〇口、平ナカが一四〇口、浜津智宏が二〇口を有する社員である旨の仮の地位を定める仮処分決定をしたこと、本件仮処分決定によつてその職務の執行を停止された取締役平伊祖一、同平ナカ、同浜津智宏および同渡辺隆一(並びに監査役)が昭和四四年一〇月二四日、申立有人限会社港屋旅館代表取締役職務代行者石沢茂夫に対し辞任届を提出して辞任したので、平伊祖一、平ナカおよび浜津智宏が同日右代行者に対し取締役、監査役の後任者選任のための臨時社員総会招集を請求し、同代行者は当裁判所昭和四四年(ウ)第一四三号職務代行者の常務外行為の許可申請事件として臨時社員総会招集許可を申請し、同裁判所より同年一一月二六日その旨の許可を得たうえ、同年一二月二〇日臨時社員総会を開催して新しく取締役として平伊祖一、渡辺隆一、諏佐公平、監査役として梶原忠吉を選任する旨を決議し、ついで同日の取締役会において平伊祖一を代表取締役と定めたこと、亡平ハルが昭和三五年一月二二日被申立人平伊祖一と養子縁組を、また昭和四一年二月二日被申立人平力、同平照子と養子縁組をしてその届出をしたこと、ハルが昭和四四年六月一五日死亡し、被申立人平テルノがその長女、同平ナカがその三女であること、以上の事実は被申立人平伊祖一、同平ナカにおいてはこれを自白したものとみなされ、その余の被申立人らの関係においては当事者間に争いがない。
また、亡平ハルと伊祖一間の前記養子縁組について昭和三五年一月二二日その届出がなされたことは、被申立人平伊祖一、同平ナカにおいて自白したものとみなされ、その余の被申立人らの関係では<証拠>によつて認められる。同被申立人らは右養子縁組届出は無効である旨主張するけれども本件全証拠によるもこれを認めることができない。そうすると、亡平ハルの死亡により、被申立人らが同人を相続したものといわなければならない。
さらに、<証拠>を総合すると、前記昭和四四年一二月二〇日開催された申立人有限会社港屋旅館の臨時社員総会において選任決議された取締役平伊祖一、同渡辺隆一、同諏佐公平、監査役梶原忠吉は、即日それぞれ就任を承諾したことが認められる。
ところで、本件仮処分決定は、平伊祖一、平ナカ、浜津智宏、渡辺隆一を取締役に選任した社員総会の決議の効力を争う訴訟を本案訴訟とし、その判決確定にいたるまでの間、右各取締役および代表取締役としての職務の執行を停止し、各その職務代行者を選任したものであるから、右の者らが取締役であることを前提とするものであることはいうまでもない。したがつて、右の者らがそれぞれ辞任し、その後の社員総会において新しく取締役が選任され、また新取締役会において新しく代表取締役が定められ、それぞれその就任があつた以上、旧代表取締役および旧取締役としての各職務の執行を停止することは意味がなく、かつ、その職務代行者を存置しておく必要もなくなつたものといわなければならない。そうして、本件のように、職務執行停止中の被代行者が辞任し、その後の社員総会において、辞任したと同一の人物を再び取締役に選任したからといつて、その決議は、本件仮処分決定の趣旨・内容に牴触するものではなく、有効であると解するのが相当である。
そうすると、本件仮処分決定は、民訴法七五六条、七四七条に定める事情の変更があつたものといわなければならない。
被申立人平テルノ、同平力、同平照子は、本件仮処分決定において各取締役は「本案判決確定に至るまで」その職務の執行を停止されているのであるから、「本案判決確定に至るまで」の間は右仮処分の取消しは許されない旨主張する。しかし、仮処分によつて職務執行停止中の取締役ら役員がすべて辞任して退任し、その後の社員総会の決議によつて取締役ら役員が新たに選任され、その結果、その効力を争う選任決議に基づく取締役ら役員がもはや現存しなくなつたときは、特別の事情のないかぎり、当該仮処分の本案訴訟は実益なきに帰し、訴の利益を欠くに至るものと解するのが相当であり、したがつてまた、以後仮処分の維持を認める実質的な理由も必要も認められなくなるのであるから、かかる場合、本案訴訟の判決確定前であつても、事情変更があつたとして、当該仮処分を取り消すことが許されないと解することはできない。よつて、被申立人らの右主張は採用できない。
また、右被申立人らは、平伊祖一、平ナカには取締役としての職務遂行に関し、不正の行為および法令に違反する重大な事実があるから、同人らを取締役から解任する請求訴訟提起準備中である。よつて本件が事情変更に該当するか否かは右解任事由の点をも含めて判断さるべきであると主張する。しかし、取締役解任の訴(有限会社法三二条、商法二五七条)を本件仮処分の本案とするものでないことは、被申立人らの主張に徴し明らかであるから、その解任事由の有無にかかわらず、前示認定の本件仮処分の取消しが許されないと解することができない。よつて、被申立人らの右主張は採用できない。
以上のとおりであるから、申立人の本件申立てを正当と認め、申立費用の負担につき民訴法八九条、九三条、仮執行の宣言につき同法七五六条の二を適用して、主文のとおり判決する。(田中隆 牧野進 井田友吉)
(別紙)
第一目録
主文
債権者から債務者有限会社港屋旅館に対する当庁昭和四一年(ワ)第一六〇号臨時社員総会決議無効確認訴訟の判決確定にいたるまで債務者平伊祖一は同会社の代表取締役および取締役を、債務者平ナカ、同浜津智宏、渡辺隆一は同会社の取締役の各職務をいずれも執行してはならない。
右職務執行停止期間中同会社の取締役及び代表取締役の職務を行わせるため
郡山市虎丸町二三番三号
石沢茂夫
を職務代行者に選任する。
第二目録《省略》
第三目録
主文
債務者有限会社港屋旅館の出資持分につき、債権者平伊祖一は一四〇口、同平ナカは一四〇口、債権者浜津智宏は二〇口を有する社員である地位を仮りに定める。
第四目録《省略》